🌍 1. 超省エネルギー建築の「副作用」
冷暖房のエネルギーを節約するために建物をできるだけ「密閉」すると、次のような問題が発生することがあります。
室内空気質(IAQ):
問題: 熱(または冷気)を保つために、現代の建物は気密性が高く、自然換気がほとんどありません。
結果: 外の新鮮な空気が入らず、室内で発生する汚染物質(呼吸によるCO₂、調理・入浴による湿気、塗料や家具から発生する揮発性有機化合物VOCなど)が室内に閉じ込められます。
影響: 室内空気の質が悪化し、「シックビル症候群(Sick Building Syndrome)」などの健康問題を引き起こす可能性があります(疲労、頭痛、アレルギーなど)。😟

生活の質と使用感:
問題: 極端な省エネ対策は居住者の快適性を損なう場合があります。
例: 過敏または暗すぎる自動照明、ユーザーが設定を変更できない厳格な温度制御、開けられない窓など。これにより居住者は息苦しさや制御不能感を覚えます。
局地気候への影響(ヒートアイランド現象):
問題: 建物内部は快適でも、周囲の環境を熱くしてしまうという逆説的な現象。
仕組み:
-
外壁や断熱材が昼間に熱を吸収し、夜に放熱します。
-
エアコンは室内の熱を効果的に除去しますが、その熱とコンプレッサーの発熱を外に放出します。
結果: 多くの建物が同時にこれを行うことで、都市部の気温は郊外より大幅に上昇します。🏙️🔥

エネルギー供給ネットワーク:
問題: エネルギーの「使用方法」と「使用時間」の変化により、全体の消費量が減っても電力網に負荷がかかる場合があります。
例: すべての建物がガス暖房から電気式ヒートポンプに切り替えた場合、総エネルギー消費は減りますが、冬季のピーク電力需要が急増し、地域の電力網が過負荷になる可能性があります。
🌿 2. より大きな課題:環境影響の全体像(ライフサイクル視点)

ここでは、エネルギー使用だけでなく、建物の一生を通した環境影響を考えます。
-
運用エネルギー: 毎月支払う電気・ガス代。通常、最も注目される部分。
-
含有エネルギー(エンボディード・エナジー): 建物を「作る」ために必要なすべてのエネルギー。原料の採掘(砂、石、鉄鉱石)から、製造(セメント、鋼、ガラス、断熱材)、輸送、建設まで。
核心的な問題: 運用エネルギーを「1単位」節約するために、「10単位」の含有エネルギーを消費してしまう場合があります。
例: 高性能な断熱材は電力節約に優れていますが、製造時に大量のエネルギーと有害な化学物質を使用し、寿命後(50年後)はリサイクルできない廃棄物になる可能性があります。
提案される解決策:
-
材料使用の最小化: 安全性と性能を保ちながら、より少ない材料で設計する。
-
分解と再利用を前提とした設計:
これは「サーキュラー・エコノミー(循環型経済)」の考え方です。
「解体(demolition)」ではなく、「分解設計(design for deconstruction)」を目指します。
つまり、設計段階から建物の寿命後に構成部材(鉄骨、外装パネル、窓など)を原形のまま取り外し、再利用・再資源化できるように計画します。♻️
🔧 3. 実施へのロードマップ
実証研究プロジェクト:
複雑かつ初期コストの高い多目的目標を達成するためには、小規模な実証プロジェクトで試すのが現実的です。
研究者や技術者が新しい材料・設計を試し、その良い点・悪い点を慎重に測定できます。
エネルギー改修:
実証結果をもとに、既存建物の改修に原則を適用します。
既存建物の数は非常に多く、新築よりも改修の方が気候目標達成の鍵となります。

まとめ:
目標は「エネルギーを節約すること自体」ではありません。
目標は、真に持続可能な建物をつくることです。
つまり、運用エネルギーを節約しつつ、健康で快適な環境を提供し、周辺環境(ヒートアイランド)への悪影響を減らし、低含有エネルギー・再利用可能な環境配慮型材料を使用することです。🌏
タグ
関連ニュース
空気の質:基準は枝葉、環境こそが根本である
現在の資料、特にIAQに関するホワイトペーパーを見ると、ひとつの明確な事実が浮かび上がる。世界共通の統一された室内空気質(IAQ)基準は、いまだ存在していない。各国・各組織でガイドラインや基準が大きく異なり、その結果、政府、システムインテグレーター、建築主、そして一般社会は、明確で行動可能な指標を持てずにいる。 しかし、より本質的な問いは「基準が不足していること」ではない。なぜ私たちは、空気を“守る”ために、これほど多くの基準や装置に依存するようになったのか。 問題の根本は、室内空間ではなく、人類の自然環境そのものにある。資源を過剰に消費し、必要以上にエネルギーと物質を使い続けることで、自然環境は破壊され、屋外の空気が汚染される。その結果として、室内空気質の悪化が避けられなくなる。そして私たちは、その“結果”に対処するため、さらに多くの基準、機器、システムを生み出すことになる。 別の視点から見れば、現在のIAQ基準やソリューションの一部は、商業的目的と強く結びついていることも否定できない。センサー、空気清浄機、高度なHVAC機器の大量生産は、資源、エネルギー、そして製品ライフサイクル全体での環境負荷を伴う。慎重に扱わなければ、「健康を守るための技術」が、結果的に環境破壊を助長するという矛盾を生む可能性がある。 もちろん、IAQ基準そのものが誤りというわけではない。特に弱い立場の人々を守り、社会の認識を高めるために、基準は必要である。しかし、基準はあくまで手段であり、目的ではない。 真の目的は、自然と調和した暮らし方に立ち返ることだ。足るを知り、不要な消費を減らし、資源を尊重し、自然換気、緑化、持続可能な設計を優先する。環境が守られていれば、空気の清浄さは管理対象ではなく、当たり前の前提となる。 結局のところ、環境を愛することは、センサーや基準から始まるのではない。それは一人ひとりの意識と選択から始まる。環境が守られたとき、空気の質は技術競争の対象ではなく、**「お金で買うものではない、自然からの贈り物」**として本来の姿を取り戻すだろう。...
詳細を見る10 の革新的な IAQ データ活用方法による健康的な建物づくり
データと行動のギャップを埋める 先進的な組織にとって、室内空気質(IAQ)の改善は戦略的に重要です。空気質は健康、生産性、快適性、従業員満足度に影響します。健康志向が高まり、優秀な人材の争奪戦が激化する中、この要素を無視することは大きなリスクとなります。 建物管理者や施設管理担当者は IAQ 改善の中心的役割を担っています。しかし、データがあるだけでは不十分で、実際のアクションにつなげる部分で多くの組織が課題を抱えています。 本ガイドはその課題解決を目的とし、IAQ 監視に関する 10 の重要なベストプラクティスおよびリアルな事例を掲載しています。 正しいデータを持っているか? 連続監視とスポットテストの違い スポットテスト:定期的にサンプルを採取する方式(外部委託が一般的) 連続監視:固定センサーでリアルタイムに測定し、異常検知や最適化が可能 連続監視は精度・反応速度に優れています。 重要な IAQ パラメータ PM2.5 / PM10...
詳細を見る「マインドフルな家」のデザイン――物質からエネルギーへ
マインドフルな家とは、単なる住まいではなく、意識をもった空間である。そこでは、すべての線、素材、光が「気づき」と「理解」から生まれる。このデザインは流行を追うのではなく、生命の本質――物質とエネルギー、形と気、身体と心の調和――へと立ち返る。 1. 物質 ― 空間の身体 すべての家は「物質」から始まる。木、石、土、水、光、風。物質は家の「身(からだ)」であり、人が五感を通して触れる部分である。 マインドフルなデザインでは、素材は見た目や耐久性だけでなく、内に宿るエネルギーによって選ばれる。 木は温かみと香りを持ち、神経を落ち着かせる。石は大地の安定と強さを伝える。自然光は人間の体内リズムを整える「律動」である。風と湿度は呼吸であり、空間を生き生きとさせる。 静かな心で素材を扱うと、それは「魂のある物質」となり、人の延長となる。 2. 空間 ― エネルギーが呼吸する場所 マインドフルな家は、呼吸する家である。空間は空っぽではなく、微細なエネルギーの場として常に動いている。風の流れ、光の射し方、静けさ、音――すべてが住む人の感情の波長に影響する。 日本建築では、それを「間(ま)」と呼ぶ。「間」は単なる空隙ではなく、エネルギーが流れ、人が静寂の中で自らの存在を感じる場所である。 美しい家が必ずしも住みやすいとは限らない。空間に余白があり、光が柔らかく、音が穏やかで、気が自然に循環するとき――その家は初めて「生きる」。 3. 心 ― 空間を形づくる源のエネルギー...
詳細を見る